おすすめ書籍の紹介

~YukikoParenting Face Bookからの抜粋~

『Cat's Cradle』・Kurt Vonnegut Jr.

(邦題『猫のゆりかご』・ヴォネガット)


こちらはティーン向け(15歳以上くらいかな?)の作品です。作者は高校で読む米文豪の中でも最も奇妙でユーモアのある作品を書くカート・ヴォネガットさんです。(星新一さんとかが似ているのかな?)ジャーナリストのジョナは1945年の8月6日、「世界が終末を迎えた日」(広島原爆投下日)に原爆を開発したフェリックス・ホニカー博士が何をしていたかを調べます。その調査の途中、彼は世界の水を一瞬で固形に変えて、世界滅亡を可能にする「アイス・ナイン」の存在を知ります。ホニカー博士の息子がいる常夏のサンロレンツォ島にジョナは向かいますが、そこで島の新興宗教「ボコノン教」にハマります。(このふざけた感じの設定がヴォネガット作品の特徴です。)

この本は分類的にはSFが一番近く、科学と宗教、それぞれの良さと危険性をテーマとしている小説です。といっても、本としては180ページと短いですし、どちらかというと不真面目です。理数系の生徒の方が好きな本かもしれません。

『The House on Mango Street』・Sandra Cisneros

(邦題『マンゴー通り、ときどきさよなら』・シスネロス)


こちらは7th−9thぐらいが一番楽しめる本だと思います。筆者のシスネロスさんはアメリカの中学・高校では絶対読む、シカゴ出身のメキシコ系女性作家です。この百数ページの短編小説は、移民の街に引っ越した少女エスペランサが日常生活を正直に語るエピソード集です。「私の名前は長すぎるから嫌い!」「近所に変なおじさんがいる…」などたわいもないことを通してエスペランサの成長をおいます。

僕がミドルの時に読んだときは「読みやすい本だなあ」くらいにしか感じませんでしたが、大学生になって読み返すと「すごくいい本だなあ」と改めて思いました。簡潔な文章の中には家族や夢に対するシスネロスさんの深い思いが隠されています。(さくらももこさんの作品に似ているかも。)

 『Matilda』・Roald Dahl

(邦題『マチルダは小さな大天才』・ダール)


こちらは3,4,5th Grade辺り向け。『チャーリーとチョコレート工場』は、ほとんどのアメリカのエレメンタリースクールで読まれる有名児童文学ですが、僕が個人的にもっと好きなのは、同じロアルド・ダールさん作の『マチルダ』です。3歳の時から文字が読めた天才少女マチルダは、才能があるのにも関わらず、両親には「うるさい!子供らしくない!」と邪魔者扱いされます。学校でも彼女は校長先生に嫌味を言われたり、体罰の対象となります。(注:1988年の本です。)ひとりで図書館に通うマチルダは「悪い大人たち」への復讐を計画します。

現代の感覚だと少し過激に感じますが、読んでみるとかなり面白くて引き込まれます。マチルダが賢さを使って行う勧善懲悪はとても気持ちいいです。読み返してみると、本当に「子供のための本だな」と感じました。後半で、担任の先生と仲良くなり、「大人はみんな悪いというわけではない。」とマチルダが気付くのも、この本が魅力的な理由です。

 『The Poet X』・Elizabeth Acevedo

(邦題『詩人になりたいわたしX』・エリザベス・アセヴェド)

主人公はニューヨーク、ハーレムに住む15歳の高校生、シオマラです彼女は「好きなことをさせてくれない厳しい母」「男子からの性的な視線」「勉強ができて、いつも自分と比べられる双子の弟」などを通して、今の生活をとても窮屈に感じています。自由になりたいーそんな気持ちを学校のノートに書いていると、学校の先生に「詩の朗読クラブ」に入らないかと誘われます。そこでシオマラは「ポエトリースラム」を知り、感銘を受け、自分もやりたいと志します。

シオマラの家族は両親はドミニカ共和国出身で、母親はキリスト教の信仰心がとても深い人です。「マミ(お母さん)にスラムに参加していることがバレたら、やめろと絶対言われる。」そう思い、彼女は隠れて自分の詩を披露していきます。でも、やっぱりお母さんにバレて…            

本作は「自己表現」と「家族との衝突」というティーネイジャーなら誰でも共感する二つのテーマを題材にしています。作風もとてもポップで、現代っ子にはとても読みやすい一冊だと感じますね。そしてこの小説は「Novels in Verse」(本紹介#8参照)に分類される本ですので、読書嫌いでも読みやすいと思います。

本書の作者アセヴェドさんは、自分自身高校生の時に全米のスラムの大会で優勝しており、オーディオブックを購入すると、彼女自身の本に出てくる詩の朗読が聞けるそうです。高校生全般におすすめです。

『Spirit Hunters』By Ellen Oh (エレン・オー)

ある暑い夏の日にワシントンDCに家族と引っ越してきた、韓国系アメリカ人の少女ハーパー。彼女は新しい家に入った途端、違和感を感じます。「この家、何かがおかしい。」 いつもは優しい弟のマイケルも、まるで違う人間になったかのように様子が変です。この家の秘密を探らなければ!ハーパーは新しくできた友達のダヨと一緒に、引越し先の恐ろしい秘密を暴きます。心霊現象・ワシントンDCの歴史・そして朝鮮半島に伝わる巫女の歴史が重なり合うちょっぴり怖い、子供向けホラー小説です。(https://youtu.be/A_jZeh0k2MY)


『A Thousand Questions』By Saadia Faruqi  (サディア・ファルキ

夏休み、テキサス育ちのミミはお母さんの故郷であるパキスタンのカラチにやってきました。アメリカとは違う匂いやマナー。言葉が通じないおじいちゃん・おばあちゃん。正直ミミは帰りたくて仕方がありません。

そんな中、ミミはおじいちゃん家の使用人の娘、サキナに出会います。家族が貧しくて、学校に行けないサキナはミミに「英語を教えて。テストでいい点を取れば、タダで学校に行けるの。」とお願いします。年齢・肌色が一緒でも、育った環境が全然違うミミとサキナ。そんな2人が仲良くなっていく、心温まる物語です。(「見た目は同じなのに全然違う」という発見、小学生の時に日本に遊びにいっていた自分と重なる部分が多くありました。)

『Tristan Strong Punches a Hole in the Sky』

By Kwame Mbalia (クワメ・ムバリア)

トリスタン・ストロングはシカゴから、おばあちゃんが住むアラバマ州の農場に向かっている車の中で、ある日記帳を開けます。それは、数ヶ月前、交通事故で亡くなった親友エディのものです。エディの日記は、アフリカ神話や400年前からアメリカに住む黒人の中で伝わるおとぎ話の絵や情報でいっぱいです。

おばあちゃんの家についた夜、小さい、人形のような「何者」が、大切な日記帳をトリスタンから奪います。それを追っているうちに、トリスタンは別の世界に迷い込んでしまします。そこは「ミッドパス」、黒人神話・民話が現実となった世界です。(僕もこの本を読むまでアフリカ神話なんて全然知らなかったです…)ギリシャ神話を題材にした「Percy Jackson」シリーズの作者・ライアダンさんもおすすめの作品です。

『Homecoming』By Cynthia Voigt (シンシア・ヴォイト)

(邦題:『帰郷』)

暑い初夏の日、13歳のダイシーは、弟のジェームズ(10)、妹のメイベス(9)、末っ子のサム(6)と蒸し暑い車の中にいます。場所は見知らぬ街のショッピングモールの駐車場。すでに何時間も車の中で待っています。四姉弟のお母さんは、モールの中へ立ち去ったきり、帰ってきません。子供たちのお父さんはサムが生まれてすぐいなくなりました。頼れる人は誰もいません。

母が帰らぬまま一夜が過ぎ、ダイシーは決心します。「みんな、親戚のおばちゃんの家があるブリッジポートまで歩こう。」おばさんには会ったことがありません。会ってくれるかどうかもわかりません。7ドルと地図を手に持って、四姉弟の旅が始まります。

本作は母親に放棄された四姉弟が、自分たちの居場所、つまり「ホーム」を探すまでの物語です。公園の茂みで寝たり、色んな方法で食料を集めるダイシーらの姿からは、子供のたくましさ、それと同時に大人社会の冷たさを感じます。母親代わりとなったダイシーはどう成長していくのでしょうか?旅の終わりに「ホーム」は存在するのでしょうか?

知的障害・精神病・家庭問題などのテーマも登場するティーン向けの冒険小説です。(7th-10thにお勧め。)


『By the Great Horn Spoon!』・Sid Fleischman

(邦題『Gold Rush! ぼくと相棒のすてきな冒険』)

『By the Great Horn Spoon!』はカリフォルニアの小学校高学年(僕自身は4th)では定番の冒険歴史小説です。舞台は19世紀のカリフォルニア。そう、世界中の人が夢を叶いにやってきた「ゴールド・ラッシュ」の時代です。12歳のジャックはボストンにいる家族のために一攫千金を目指します。果たしてジャックは金を持って帰って来れるのか?アクションいっぱいの名作です。

そして、この本と一緒に行ける場所が、Calico Ghost Town です。LAとラスベガスの間にある、こちらのゴーストタウンですが実は元々は金山ではなくて、銀山です(笑)。それでも、本と同じ時代の生活がどんなものだったのかを体験できるとても面白い場所だと思います。他にも Old Town Sacramento、 Julian、Knotts Berry Farmなどもこの時代を体験するにはいいですよね。おすすめです。



『Farewell to Manzanar』・Jeanne Wakatsuki Houston

(邦題 『マンザナールよさらば―強制収容された日系少女の心の記録』)

『Farewell To Manzanar』はトーランスのミドルスクールでは定番の本です。(僕自身は8thに読みました。)これは作者である日系2世のジーン・ワカツキさんが子供の頃に経験した第二次世界大戦中の日系人の強制収容をテーマにした小説です。収容所の中でも最大であった「マンザナー強制収容所」は一体どんな場所だったのか。どんな生活をしていたのか。解放された後人々はどうなったのか。過去が暴かれます。

この本を読む前後でぜひ足を運んで欲しいのが、リトルトーキョーのJapanese American National Museumです。ここには、収容所時代の展示はもちろん、100年前の日本人はアメリカでどんな経験をしたのかがのぞけます。アメリカに住む日本人なら行っておくべき場所なのかなと感じます。他にも、作者の家族が住んでいた Terminal Island Japanese Fishing Village Memorial、そして少し遠いですが現在もあるマンザナ跡地も夏休みに行ってみたい場所です。

『Choose Your Own Adventure』・Bantam Books

『レイトン教授』シリーズ・柳原慧(レベルファイブ)

本書では、イギリスを舞台に考古学者のレイトン教授が一番弟子のルーク少年とさまざまなナゾや事件を解明します。シャーロック・ホームズと同じ推理アドベンチャーです。ただこのシリーズが違うのは本の途中途中で出てくる謎解きパズルです。これを解こうとするだけでもこの本は面白いです。

もう一つの『Choose Your Own Adventure』シリーズは80年代からある、アメリカでは有名な作品です。このシリーズの大きな特徴は読者が主人公になって物語をどう進めるか選択できることです。選択によっては、冒険の途中に死んでしまうこともあります(笑)。ページ数も少なく、正直、小説としての「質」は低いので、本屋で買わずに図書館で借りることをおすすめしますが(むしろ一般の本屋では非売品かと思います)、読書への興味を引き出すには十分ではないでしょうか。

『A Tale for the Time Being』・Ruth Ozeki

 (和訳版『ある時の物語』 ルース・オゼキ)

日系二世の作家であるオゼキさんは2011年のある日、カナダ・ブリティッシュコロンビアの海岸で汚れたキティちゃんの箱を見つけます。オゼキさんは「東日本大震災の津波で流されたものかもしれない」と思い、箱を開けてみると中には立派な日記帳が入っています。日記はトーキョーに住む16歳の少女、ナオのものでした。オゼキさんは日記を少しずつ読むことによって、ナオはアメリカで育ったこと、それが原因でいじめを学校で受けていること、父親と疎遠になっていることなどを知ります。日記を読み進めながら、ふとオゼキさんは思います。「この子は今、無事なのだろうか。」            

本書はアメリカ・日本・カナダを舞台にいじめ・うつ病・自殺・宗教・などの辛くて、難しいテーマを扱う大作です。なので、ハイスクールの生徒にしかおすすめできません。アメリカで育ったナオが「日本の日本人」から認められない残酷な現実に、ショックを受けました。でも、それでも希望を探し、生きようとするナオに心を打たれました。この本は日本・アメリカ両方のことを知っていれば知っているほど面白い作品です。途中、日本語の言葉もたくさん出てきます。(日本語の部分には注釈がついています。)

そして、この本のもっとも面白い部分は「ナオの日記」が終わった時です。そこで話は終わり…と思いきや、そこから後半が始まります。次第に物語はナオ・作者のオゼキさん・そして読者の時空が交差していきます。??? わかりにくいですね。

読んだらわかりますよ!

『The Breadwinner』・Deborah Ellis (エリス)

(邦題:生きのびるために)

『Sold』・Patricia McCormick (マコーミック)

(邦題:私は売られてきた)


この2冊はそれぞれアフガニスタン、そしてネパールで懸命に生きる少女2人が主人公の物語です。それぞれ、戦争と人身売買という、難しくも実際問題である二つのテーマを題材としています。

タリバン政権下のアフガニスタンでは、女性が1人で出歩くのが禁止されています。そのため、11歳の少女パーヴァナはいなくなったお父さんの代わりに家族の「稼ぎ手」(Breadwinner) にならないといけません。パーヴァナは髪を切り、男の子のふりをして、危険なカブールの街で、家族のために働きます。町には銃を持った兵士がいて、道路には地雷が埋まっています。

12歳のラクシュミーはネパールの小さな村で貧しい暮らしを続けています。ある日、ラクシュミーは継父に町に連れて行かれ、「家族のために召使いになってほしい」と言われます。責任感の強い彼女は仕事を引き受けるも、ついた場所はインドの売春宿でした。彼女は父に「売られた」(Sold) のです。過酷な生活が始まります。

この2冊は決して楽しい本ではありません。でも、2021年現在でも、多くの子供たちが体験している事実を物語っています。決して昔話ではありません。どちらも児童書なので、過剰な描写はないですが、目を背けたくなるような場面もあります。しかし、同時にそんな生活を生き抜くたくましい2人に勇気をもらいます。Breadwinnerの方は 4-6th, Soldは7-10thにおすすめです。

『Booked』・ Kwame Alexander (アレクサンダー)

『Crossover』・ Kwame Alexander (アレクサンダー)

『Inside Out and Back Again』・Thanhha Lai (ライ)

1つ目と2つ目の本は期待の若手作家アレクサンダーさんが書くスポーツ小説です。Bookedはサッカー、Crossoverはバスケを頑張る少年がそれぞれ主人公です。ただ、2つとも内容はスポーツに止まらず、家族関係・人種差別・学校とスポーツの両立など、現実的なテーマを探求します。(例えばCrossoverでは、8年生の主人公ニックは、親の離婚というストレスでサッカーに集中できなくなる場面があります。)アレクサンダーさんのスピーディーでポップな文章が大好きで、声に出して読みたくなります。

3つ目はベトナムから難民として家族と渡米した作家のライさんが、子供のころの経験をもとに書いた児童小説です。こちらは学校でも読まれることが多い名作です。読者は10歳の少女ハァのベトナムでの生活、船の上での生活、新天地アメリカでの生活をたどります。日本からアメリカに来た子は共感できることがあるかも知れないですね。

『A Good Kind of Trouble』・Lisa Moore Ramée ラメー(翻訳なし)

ミドルスクールに上がりたてのシェイラは、常に言われたことをきちんとする優等生です。黒人の彼女は、プエルトリコ系のイザベラ、そして日系のジュリアと「United Nations Trio(国連トリオ)」という小学校からの友達グループと初めての中学生活を楽しんでいます。

中学は「はじめて」がいっぱいです。初めて会うクラスメイト。初めての気になる男の子。そして初めてシェイラは自分の「肌の色」を意識します。親友だったはずのジュリアが最近、他の「アジア人グループ」といつもいる…私はなんで他の黒人の子たちと友達じゃないんだろう…私のお姉ちゃんはなんで私のことを「ブラックっぽくない」ていうんだろう…そして、黒人の男性が警官に襲われているニュースをみて、シェイラは本格的に、人種・人種差別、そしてBlack Lives Matterのプロテストについて考え始めます。

本書は12歳の少女なりの悩みと葛藤、そして正義を本当にうまく描写しているなと感じました。小学校の友情関係が少し変わっていく部分や、人種をだんだん意識していく部分は、共感できました。そして作者のラメーさん自身がロサンゼルス出身ということもあり、本の舞台である中学校とその人種の構成にすごく親近感を感じました。

そして、やはり「Black Lives Matter」という児童文学ではなかなか扱われないテーマを、子供の目線で入れたのはこの本の一番の魅力だと思います。

『Percy Jackson & The Olympians Series』

Rick Riordan

アメリカ合衆国の政治や文化に大きな影響を与えているもののひとつに「古代ギリシャ」があります。そんなわけか、アメリカの小中高の英語の授業では「ギリシャ神話」を頻繁に読みます多くの生徒が複雑な名前や設定に困惑する中、「あるシリーズ」を読んだ子たちはスムーズに話を飲み込み、さらには「先生、じゃあこの話も知ってる?」と教師以上の知識を見せます。それが今回紹介する『Percy Jackson & The Olympians Series』・Rick Riordan『パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々』・ライアダン(作)です。

『Ragtime』E.L. Doctorow

『ラグタイム』・ドクトロウ(作)

本書は1910年代の「古き良きアメリカ」を舞台とした時代小説です。アメリカは工業化し、少し裕福な家庭ならフォード社のモデルTにのりながら、ラグタイム音楽(本書の題名)を蓄音機で楽しめた、そんな時代です。

しかし、この「良きアメリカ」は本当だったのでしょうか。同じ時代に東欧からニューヨークに逃げてきた「移民のアメリカ人」、そして一世代前に奴隷制から解放された「黒人のアメリカ人」はどんな生活をしていたのでしょう?

そして「古き良きアメリカ」「移民のアメリカ」「黒人のアメリカ」ーこの3つが衝突した時、この国はどう変わるのでしょうか。読者は3つの家族の目線から、この歴史の一章をたどります。

そして、この本のもう一つの魅力が次々に出てくる実在する偉人たちです。脱出王フーディーニ、革命家エマ・ゴールドマン、財閥創始者J.Pモルガンが同時に出てくる本なんてそんなにありません。